朝起きてビックリ。なんと8時!
寝坊してしまった。14時間も寝てしまった。こんなに長く寝たのは10何年ぶりか?
天気は快晴。あわてて朝御飯食べて出発する。
ビバーク地点から七五岳頂上までは30~40分。
頂上は360度さえぎるもののないパノラマ景色。
昨日はずっとあえぎながら見上げていた岩塔の破沙岳も、今日は見下ろしている。
少し東側に降りて東稜を見下ろせるところを探す。
少し乗り出すと、見えた。
きれいに丸みを帯びたカンテ状の白い花崗岩が美しくそそりたつ。
エルキャピタンのノーズを上から見下ろしたときの形によく似ている。
最初の印象は、ロープなしは無理!
すぐに気持ちを入れ換えて頂上北側の広いテラスをウロウロ。
するとすぐにひと夏の思いでルートの終了点と思われるステンレスハンガーボルト2本発見。
とりあえず下の様子は、丸みを帯びた岩の形状なので上からよく見えないので懸垂してみる。
50mほど降りてみると、足元は巨大な1枚岩のフェースが広がっていた。ワーオ!
しかし、弱点は皆無で、傾斜も90度を越えている。
長石も少なく、ただただ綺麗な壁が、そこにあった。
昭和47年に初登された福岡GCCダイレクトルートの錆びてところどころ朽ちて欠けたリングボルトラダーが、岩の形状を無視して真っ直ぐに下に向かっていた。
こりゃあ無理だわ。
少し降りて左手に伸びる東稜は、意外と一定の傾斜でせり上がっていて、ところどころに一息入れられそうなレッジも見受けられた。
あれなら行ける!
過剰でも、過信でもない、自分の中から自然に湧いてくる確信を感じた。
グリグリとマイクロトラクションで登り返して、荷物をまとめる。
フリーソロだが、アプローチシューズとカメラを携帯しやすくするためにハーネスを装着。
あめ玉4つもって、東側に切れ込んでいる草付き混じりのルンゼスラブを降りていく。
今回のために新調した5.10のアプローチシューズのキャンプ4のソールが抜群のフリクションを発揮して快適に下る。
東稜の取り付きはすぐに分かった。
スラブの末端に立ち、見上げる。
カッコいい!
東稜の正式名は福岡GCCルート。
昭和50年に初登。
その記録によると9ピッチ295m、Ⅵ級。微妙なフリクションクライミングの連続。6ピッチ目のビレイポイント用に1本だけリングボルトを打つ、とある。
いまは、数年前に第2登を目指した鹿児島のパーティーがビレイポイントやランニングボルトをたくさん打つ足してステンレスハンガーがピカピカ光っている。
同じパーティーが初登したひと夏の思いでルートも、東稜と同じ取り付きからスタートして右上したラインを光らせている。
インスティンクトに履き替えて、チョークを指先に塗り込む。
特に緊張はしていないのは、ハーネスをしているせいか誰かにビレイしてもらっている感覚があった。
一手一手、一足一足、確実に白い長石をつないで三点支持で登り出す。
心配していた長石の欠落はなく、細かい結晶がジョリジョリすることを気を付けるだけ。
一定のペースで登り続ける。
傾斜はちょうど小川山のガマスラブ。あれがずっと続いている。
2.3ケ所ちょっととまどうところもあったが5.9を越えることはなかった。
中間より少し上で、初登の時に打たれたたった1本のリングボルトを発見。
それはしかも半打ちで、とても墜落に耐えられるものではないのは明らか。
初登もふたりでフリーソロしたことと同意義だろう。
一時間ほどで頂上に到着。
ほとんど岩だけで登ったが(その方が快適だったから)最後の少し右上がりのハングのあるフェースには長石が見当たらないので右に5.9のトラバースをして、最後のかなり垂直に近い草付きを登った。
登っている間から感じていたことだけど、常にいまは亡き親友にビレイしてもらっていたような気がした。
だから頂上に着いて、何度もありがとうと声に出した。
ハーネスを外し、かつてふたりで登ろうと約束したルートを振り返る。
眼下にはやはり美しい岩の稜線がスラリと伸びていた。
ひとつの思いがいま終ったんだな。
しばらく頂上南側の陽当たりの良いテラスで昼食と休憩。
岩に囲まれた独りの時間が、この上なく贅沢だ。
しばらくして、再び北側の探索。
一段下に降りられるルートを見つけた。
北壁の全容を見たこともなく見えないが、おそらく上部ハング帯の上にクラックがあったので、持ってきた厳選3つだけのカムすべてを使って再び懸垂してみる。
おっ、
おー!
岩にわずかに刻まれた途切れ途切れのホールドが、上から見て左下に向かって続いている!
その先には草付きテラスがあり、その20mぐらい下には北壁のど真ん中にあるという大凹角の頭のテラスが見える。
大凹角は期待していたクラッククライミングは、やはりビッシリつまった草木によって登る興味はなくなる。
が、しかし!
真っ直ぐ下には85度ぐらいの傾斜でカンテが続いているではないか!
登り返して、とりあえず1ピッチ降りたテラスにビレイポイント用にボルトを2本打つ。
久しぶりの手打ちはしんどいけど、高まる期待に振るうハンマーもリズミカルだ(笑)
夕陽のなか、時間切れ。
充実した1日だった。
過去との決着。
未来への期待。
テントで三岳をチビリチビリと飲みながら、天国へも献杯した。
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